専門家でもわからない人類4つの謎(参考図書:サピエンス全史(上巻))

過去を知る力の発展

歴史や生物学の本を読んでいると、「なんでこんなことがわかるのか?」もしくは、「なんで断言できるのか?」ってなることが多いです。例えば、発見された化石が何年前のものなのか、とか、性別は?どんな社会?とか。たった一つの証拠でどんどん事実を紐解いていくさまに、到底たどり着けない領域に受け身になり、批判的な姿勢でいることに諦めさえ覚えます。

たまにTV番組の特集で、その論理が披露されることもありますが、地質学や生物学、歴史認識など多くの学問を導入して一つの解を出していることがわかります。

先日、AMAZONプライムで視聴できる恐竜の特集を見ていたときは、恐竜の化石に刻まれた肉食の恐竜の歯型の痕跡で、その対象が肉食もしていた、という事実から壮大な恐竜社会のストーリーが描かれてました。何か、とてもバランスの悪いジェンガを積み上げていくような繊細な感覚で、とても面白い。

 

一方で、「ここまではわかってるけど、ここからはわからん」という態度も非常に面白く思います。わからない領域があるからこそ、探究心が掻き立てられるのだと。

最近ハマっている「サピエンス全史」もそのような描写が多くありました。この本は、問い→仮説1、2、3→主張、みたいな構成が多く続くのですが、最後に「実はわからないんだよね」というオチが結構あります。現代の科学をもってしても、未だに回答が出ない領域。

ここでは、そんな「結果的にわからんものはわからん」という部分をまとめておきたいと思います。

 

専門家でもわからない過去

脳の進化

サピエンス(現代の人類)が生物界の食物連鎖の頂点になることに貢献したのは「脳の巨大化」であることは疑いのない事実だと思います。脳があることで、火を使い倒すことができるし、自動車も銃も作れます。

では、いったい何が人類の巨大な脳の進化を推し進めてきたのか?それは、現時点ではわからないそうです。

脳の巨大化はメリットばかりではなく、むしろデメリットもたくさんありました。巨大化にともなって重くなり、その荷重による腰痛や肩こりといった身体的な負荷は自然界では致命傷でした。更に、多くのエネルギーを消費するので筋力も衰えました。その割には、脳が巨大化してからそれをうまく活用するのに、数百万年の月日を要してます。火を使い出してからはついに頭角を表し始めますが、そのために巨大化したとも考えられない。むしろ、たまたま脳が大きくなった霊長類が、普通の生態系の一部としてなんとか生きながらえていた結果、たまたま「火」を使えるようになって・・みたいな偶然の結果と考えるほうが自然なのかもしれないです。

何が人類の巨大な脳の進化を推し進めてきたのかは「わからない」

 

 認知革命

「認知革命」とは7万年前から3万年前に起こった新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを言います。本書では、この「認知革命」こそ、サピエンスが生物界の頂点に上り詰めた第一歩だとするのですが、その原因は何だったのかわかってません。

一説によると「遺伝子の突然変異」が起こったと考えられているようですが、それも単なる偶然ではないかとのこと。この説は、ネアンデルタール人に起こってもおかしくなかったとします。

一方で、「噂話」をするために言語が発展したとの説もあります。サピエンスは自然界の中では運動能力的には弱小です。協力しなければライオンに狩られるし、すばしこいウサギなども捕まえられない。そうした「社会的な動物」としての特性が、誰を信頼できるか?という情報を収集するために、複雑な言語が生まれたとされます。この説を考えてみると、そもそも裏切ったり、信頼できない行為をするやつがいるから、そうではないやつを特定するという目的が言語を育てたと考えることもできます。裏切りがサピエンスを育てたとすると複雑な気持ちになりますが、人間の本来的な醜い部分に触れたような気がして面白いです。

なぜサピエンスに認知革命がおこったのかは「わからない」

 

狩猟採集民の生活

7万年前に認知革命が起こってから、サピエンスは遺伝子の進化を上回るスピードで自然界を席巻していきます。 そして、次の転換点は「農業革命」です。これは1万2000年前の出来事。サピエンスが生まれた250万年の歴史を人間の人生に当てはめてみると、認知革命が起きたのが「3年前」で、農業革命が起きたのが「半年前」です。やや脱線しますが、遺伝子の書き換えには数万年はかかるようでして、現代人の遺伝子はほぼ狩猟採集民に形成されたとされてます。(道理で、米や麦を毎日のように摂取すると太ったり、夜行型の生活をすると体調を崩したり早死したりするわけです。)

確かに、短い人生を考えてみても、半年間では人格は変わりませんが、3年もあると構成する細胞もすっかり変わっているでしょうし、考え方も付き合っている友達も変わったりします。

そんな現代の人類を作っている狩猟採集民の生活ですが、実はほとんどわかっていないそうです。これは理由はとてもシンプルで、冒頭で述べた過去を知るために必要な考古学的は、主に骨の化石や石器から成るわけですが、狩猟採集民はそもそも定住していないですし(骨が分散する)、道具もほんのごく一部しか使っていない。つまり、道具を使い、定住し始めた農業革命以降の社会とは違い、証拠が見つからないわけです。

こう考えると、もしかしたらどれだけ科学が発展しようが、永遠に謎、ということも考えられます。想像が大好きな人類にとっては、狩猟採集民は永遠にわからない関心の対象であり続けるのかもしれません。

狩猟採集民の生活はほとんど「わかっていない」し、これからもわからないかも

 

男性優位社会

農業革命の面白いところは、どこか特定の地域で偶然に始まってそこから前回に普及した、というわけではなく、複数の場所で独立して発生したということです。具体的には、中東、中央アメリカ、中国、北アメリカニューギニア、西アフリカをそれぞれ独立して始まりました。 

農業革命により、サピエンスが大規模なネックワークを構築することができるようになり、爆発的に人工が増えていくわけですが、「多くの人にとって良いことずくめではなかった」とするのが筆者の主張です。

その根拠の一つとなるのが、「ヒエラルキーの登場」です。インドでいうカースト、アメリカの黒人vs白人、奴隷と支配者、雇用する側とされる側。数でいうと、支配される側が多いわけですから、下位のヒエラルキーに属する人類は、狩猟採集民と比較した場合には、たとえ寿命が伸びて獣に襲われる生活にから脱したとしても「不幸」だと言えるかもしれません。

ヒエラルキーの中でも、あらゆる社会に存在したのが、男性と女性のヒエラルキーです。本書では、「少なくとも、農業革命以降、ほとんどの人間社会は、女性より男性を高く評価する家父長社会だった」と分析してます。もちろん、クレオパトラや武則天などの例外もありますが、それらはレアケースで、レアケースであるからこそ歴史に刻まれていると捉えることができます。

では、なぜほぼすべての社会で男性が女性よりも重んじられてきたのか?それはわかりません。筋力の違い、攻撃性の違い、遺伝子の違いなど様々な説は提唱されますが、どれも決め手にかける説のようです。

筋力は確かに男性のほうが強いが、それはあくまで平均的な差分で、個体単位でいうと男性よりも強い女性がいます。

攻撃性に関しても、確かに個体単位ではそうかもしれないが、戦争や争いはそういった個の攻撃性だけで立ち向かえるものではない。むしろ冷静な分析力やリーダーシップが必要な中での説明にはなりません。

遺伝子に関しては、やや説得力があるように思えます。それは、女性が出産という役割を担っている以上、人生のどこかで社会的弱者になりえる局面がくるということです。その期間は他社に守ってもらわなくてはならない。しかし、これも他の生物の例を考えると説得力にかけるものになります。例えば、ボノボやゾウはメス社会で、男性はむしろ孤立してます。これらの動物はメスが徒党を組んで、度を超したオスを打ちのめすようです。

なぜ女性より男性が重んじられてきたのかは「わからない」

 

現代の変化をどう捉えるのか? 

ここでは、過去の出来事でも、原因や事実がわかっていないことを何点かピックアップしてみました。わかっていないことに関する、様々な仮説が面白く、その思考プロセスや主張と反論の考え方は勉強になります。

さらに過去を考えることは、現代の出来事を長い歴史の中でどう捉えるのか?という視点も与えれくれます。例えば、先に記載した男性と女性の格差については、何万年も続く根深い問題ですが、この21世紀においては、潮流が一気に変わってきていると思います。雇用の問題や差別の問題もまだまだ問題は残しながらも過去の比較でいうとその是正に前向きな変化が起こってます。同性愛などに関しても同様です。黒人差別なども、アメリカで大統領が登場するまでになりました。なぜ、現代はこのような年百年、何千年と変わらなかったことに対して変化を生むことができたのか?もしかしたら僕がまだ読めていない本書「サピエンス全史」の下巻にもそういった問いに触れてそうですが、その前に自分自身で少し考えてみようと思います。(完)

 

◆本ブログで紹介した書籍

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福